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盛岡地方裁判所 平成7年(ワ)229号 判決 1999年5月28日

盛岡市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

石橋乙秀

東京都港区<以下省略>

被告

東京ゼネラル株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

榎本吉延

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 被告は、原告に対し、金一六七三万一五七一円及びこれに対する平成七年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被告は、原告に対し、別紙株券目録記載の株券を引き渡せ。

2  予備的請求

被告は、原告に対し、金一八三九万八五七一円及びこれに対する平成一〇年八月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、大正九年○月○日生まれで、無職の年金生活者である。

(二) 被告は、東京穀物商品取引所及び東京工業品取引所等の各取引所の商品先物取引員である。

2  本件取引

(一) 原告は、平成六年一月一八日、被告との間で東京穀物商品取引所等について取引委託契約を締結し(以下、この委託契約に基づく取引を「本件取引」という。)、右契約に基づき、同日以降同年五月二〇日まで各商品先物取引を行い、被告に対し、同年五月二五日までに、委託証拠金として、右取引による利益の振替えをも含む合計一六七三万一五七一円及び別紙株券目録記載の株券を預託した。

(二) 原告は、同年五月二六日に脳梗塞により入院し、そのため同日以降、被告に対して取引の委託を全く行っていないにもかかわらず、被告は、原告に無断で、平成七年二月一四日まで各商品先物取引を原告の計算によって行った。

(三) 原告は、平成六年八月一一日、右無断売買の事実を知ったため、被告盛岡支店に赴き、同支店長に対し、本件取引を中断し、全て手仕舞して委託証拠金を原告名義の各銀行口座に送金し、株券を原告の入院先であるa病院に送付するよう指示した。

(四) 原告は、被告が原告の右指示に従わず、その後も原告に無断で本件取引を継続したため、同年一〇月一一日、被告盛岡支店に赴き、同支店長に対し、書面により、同年一〇月末日をもって手仕舞し、委託証拠金の送金及び株券の送付を行うよう指示したが、被告はこの指示にも従わず、平成七年二月一四日まで取引を継続させた。

3  被告の責任

(一) 主位的請求

本件取引のうち平成六年五月二六日以降平成七年二月一四日までの取引は、原告の入院をよいことに、被告が原告の指示を受けずに無断で行ったものであるから、その効果は原告に帰属しない。

したがって、被告は、原告に対し、不当利得として、右無断売買の直前である平成六年五月二六日時点において原告が被告に預託していた委託証拠金一六七三万一五七一円及び別紙株券目録記載の株券の返還義務を負う。

よって、原告は、被告に対し、主位的に、不当利得に基づく返還請求として、一六七三万一五七一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年九月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払及び別紙株券目録記載の株券の引渡しを求める。

(二) 予備的請求

被告は、前記2(二)ないし(四)のとおり、本件取引において無断売買及び仕切拒否を行っているところ、無断売買が商品取引所法九四条三号、四号、同法施行規則三二条、三三条三号、受託契約準則二三条(1)及び(2)に違反する行為であり、仕切拒否が商品取引所法施行規則三三条一号に違反する行為であることに照らせば、被告の平成六年五月二六日以降平成七年二月一四日までの行為は全体として違法であって不法行為を構成する。

そして、原告が入院した平成六年五月二六日の前日である同月二五日の別紙株券目録記載の株券の終値は以下のとおり合計二六一万二〇〇〇円であった。

三井造船株式会社株券(一〇〇〇株券) 三七万三〇〇〇円

大日本土木株式会社株券(一〇〇〇株券) 八七万円

株式会社大京株券(一〇〇〇株券) 一〇九万円

株式会社ミスターマックス株券(一〇〇株券) 二七万九〇〇〇円

したがって、被告の右不法行為により、原告は、同年五月二五日時点において原告が被告に預託していた委託証拠金一六七三万一五七一円と右各株券の価格二六一万二〇〇〇円との合計一九三四万三五七一円の損害を被った。

よって、原告は、被告に対し、予備的に、不法行為に基づく損害賠償として、右損害合計の内金一八三九万八五七一円及びこれに対する予備的請求を追加した日の翌日である平成一〇年八月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が無職の年金生活者であることは否認し、その余は認める。

原告は、アパートの経営者である。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、原告が平成六年五月二六日に入院したこと及び平成七年二月一四日までの取引が原告の計算によって行われたことは認め、その余は否認する。

(三)  同(三)の事実のうち、原告が平成六年八月一一日ころ被告盛岡支店に来社したことは認め、その余は否認する。

(四)  同(四)の事実のうち、原告が平成六年一〇月一一日、被告盛岡支店に来社したこと及び被告が同日原告から株券の送付先を記載した書面を受領したことは認め、その余は否認する。

3  同3のうち、平成六年五月二五日現在の別紙株券目録記載の株券の終値が合計二六一万二〇〇〇円であることは認め、その余の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件取引の内容は、別紙売買一覧表のとおりである。

このうち、原告が無断売買であるとする平成六年五月二六日以降の取引は、全て原告が被告従業員のB(以下「B」という。)らに注文し、これを受託して被告会社が行ったものである。

したがって、右取引は全て原告の指示に基づくものであって、その効果は原告に帰属しているというべきであり、被告は原告に対し、何ら金員等の返還義務ないし賠償義務を負わない。

2  原告は、入院前日の平成六年五月二五日時点における委託証拠金及び預託株券の返還を求めているが、同日現在、原告は、自ら有効であることを認めている被告会社に委託した未決済の建玉を多数有しており、右決済後の差金を全く考慮しないで委託証拠金等の全額の返還を求めるのは不当である。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件取引の経過等について

請求原因1の事実のうち、原告が、大正九年○月○日生まれであること、被告が、東京穀物商品取引所及び東京工業品取引所等の各取引所の商品先物取引員であること、同2(一)の事実、同(二)の事実のうち、原告が平成六年五月二六日に入院したこと、平成七年二月一四日までの取引が原告の計算により行われたこと、同(三)の事実のうち、原告が平成六年八月一一日ころ被告盛岡支店に来社したこと、同(四)の事実のうち、原告が同年一〇月一一日、被告盛岡支店に来社したこと、同日被告が原告から株券の送付先を記載した書面を受領したことは、いずれも当事者間に争いがない。

右当事者間に争いがない事実及び証拠(甲一、二、三の1、四ないし九、一〇の1ないし14、一一ないし二一、二三ないし四二、乙一ないし五、六の1ないし4、七及び八の各1、2、九の4、一〇、一一及び一二の各1、2、一三、一五の1ないし109、一六ないし一八の各1ないし4、一九の1ないし3、二〇の1ないし20、二一の1ないし36、二二の1ないし5、二三の1ないし69、二四の1ないし99、二五ないし二八、二九の1ないし4、三一、三二の1ないし36、三三の1ないし4、三四の1ないし3、証人B、同C、原告、調査嘱託(b病院、a病院))によれば、以下の事実が認められる。

1  当事者

原告は、大正九年○月○日生まれで一人暮らしであり、昭和五三年三月に県職員を退職した後、●●●県身体障害福祉協会理事、授産施設所長等を務め、平成元年三月から無職となり年金生活をしていた。

被告は、東京穀物商品取引所及び東京工業品取引所等の各取引所の商品先物取引員である。

2  原告の他社における取引

原告は、平成三年二月一五日から平成四年九月一四日まで、先物取引委託会社である北辰商品株式会社(以下「北辰商品」という。)において、粗糖、白金、大豆、小豆、銀、綿糸及び金の先物取引を行ったが、担当者から金銭の貸付を依頼されたことや取引が自己に相談することなく行われたことを理由として、同社の管理部に苦情を申し立て、その結果、平成五年一〇月七日、同社との間で、同社が原告に和解金として七五〇万円を支払うことを内容とする和解契約を締結し、右金員を受領した。

また、原告は、平成三年七月三一日から平成四年六月三日まで、北辰商品における取引と平行して、同じく先物取引委託会社であるカネツ商事株式会社において、小豆及び白金の先物取引を行っていたが、原告の指示どおりの注文がされなかったことを理由として、商品取引所に異議を申し立て、その結果、平成五年四月一四日、右カネツ商事との間で、同社が原告に見舞金として二〇〇万円を支払うことを内容とする和解契約を締結し、右金員を受領した。

3  本件取引及びこれに至る経緯

原告は、北辰商品の管理部次長に勧められ、被告盛岡支店における取引を行うことになり、平成六年一月一八日、被告との間で商品先物取引委託契約を締結して同日先物取引を開始し、これ以降平成七年二月一四日まで、被告に委託して別紙売買一覧表記載のとおり各商品先物取引を行い、右取引期間中、委託証拠金として、別紙入金状況記載のとおり、株券及び現金を被告に預託した。

本件取引の開始当初は、被告の従業員であるDが原告の担当者であったが、原告の電話や来訪に対し、右Dに替わって支店長であるBが対応したこともあり、原告もBに取引の注文をすることが多くなった。

原告は、日本経済新聞、先物市況に関するテレビ番組、投資専門誌である投資日報等によって取引相場に関する情報を得て、本件取引の開始当初から、被告に対し、電話によって自ら取引の数量、品名及び限月を指示して取引を行っていた。

なお、証拠金に関して、Bから原告に追証拠金が必要になったとして入金を請求したのに対し、原告が計算上証拠金を入金する必要はないはずであるとして被告管理部に電話による異議を申し立て、その結果、証拠金が不要であることが判明したということもあった。

4  原告の入院

原告は、平成六年五月二六日、朝から左上下肢の脱力感があり、かかりつけの医院で入院を勧められ、同日正午ころb病院(以下「b病院」という。)に入院した。入院時には左顔面を含む左不全麻痺が見られ、同病院での診断は脳梗塞であった。

原告は、入院後、五月中は寝たきりの状態で点滴治療や検査等を受け、病院内の移動は車椅子で行っていたが、六月一日から、検査のほか、リハビリとして理学療法及び作業療法を行い、歩行により病院内の移動を行うようになった。

原告は、右入院中に、b病院から被告盛岡支店に電話し、Bに対し、b病院に入院していることを伝え、またa病院に転院する予定であること等を伝えた。

原告は、同年六月二〇日、日常生活動作もほぼ改善されていたが、家族の希望によりa病院に転院し、同病院において作業療法及び理学療法(いずれも一日各一五分ないし四〇分程度)によるリハビリ及び各種検査を受けた。

5  その後の経過

原告は、平成六年八月一〇日、入院先のa病院から外泊許可を得て帰宅し、翌一一日、事前に電話連絡を入れてから被告盛岡支店を訪れ、同日時点で特に証拠金不足の状態ではなかったが、応対したBに対し、持参した現金一〇〇万円を渡した。他方、Bは、原告に対し、「お預かり委託証拠金及び委託証拠金必要額」及び「お預かり有価証券の内訳」等のほか、「現在の建玉内訳」として右入院後に原告の計算で行われた各取引によるものを含む建玉とその値洗状況が記載されている同月一一日付残高照合通知書を渡し、その概略を説明したが、原告から特段これに対して異議を述べられたことはなかった。また、原告は、右残高照合通知書の回答欄に自己の氏名を自署し、不動文字で書かれた「通知書事項について(何れかに○印を付して下さい。)(1)通知書の通り相違ありません。(2)下記の事項について、相違又は内容不明な点がありましたので、調査の上回答願います。」との記載については、いずれにも丸印を記載せずBに渡した。

原告は、同年一〇月一一日にもa病院から外泊許可を得て帰宅したところ、被告から委託証拠金預り証が送付されており、右預り証の証拠金の摘要欄には八月一〇日に原告が持参した一〇〇万円につき、「新規入金一〇〇万円を含む」との記載があった。原告は、右一一日、被告盛岡支店を訪れたが、右一〇〇万円についての記載に関し、特段異議を述べることはなく、Bに対し、証拠金充用証券である株券が一〇月末に返還可能であれば返還するよう依頼し、「株券の送付先について」と題して「現在盛岡市<以下省略>の自宅は居住していませんので入院中のa病院下記宛御送付賜りますようお願致します」等と記載した書面(甲三の1)を渡したが、一〇月末時点で証拠金不足の状態であったため、結局株券は返還されなかった。

その後、原告は、同年一一月一七日に遺産相続問題に関する弁護士費用として現金一〇〇万円が入用になったため、同月二二日にBに電話し、現金が必要になったため一〇〇万円を返還するよう依頼し、同月二四日に被告盛岡支店を訪れ、Bから一〇〇万円を受領したが、その際、特にBに対して苦情を申し述べることはなく、前記八月一〇日のときと同様、同年一一月二四日付残高照合通知書の回答欄に自己の氏名を自署し、前同様の「(1)通知書の通り相違ありません。(2)下記の事項について、相違又は内容不明な点がありましたので、調査の上回答願います。」との記載のうち(1)に丸印を付し、「相違なし」と記入した。

被告管理部で委託者管理を担当するC(以下「C」という。)は、同年一二月一九日、盛岡支店の顧客の実態調査のためa病院に原告を訪ねたが、その際、原告から、Bの行動について特段苦情を述べられたことはなく、また、原告の求めに応じて、その時点で取引をやめた場合の結果につき、持参した同月一六日付残高照合通知書を見せて説明し、さらに、証拠金が八万七九五四円不足していることの説明をした。原告は、Cの右説明に対し、その時点で一五枚ずつの両建になっている銀の建玉を、証拠金不足が解消できる状態になるまで売買同数ずつ仕切るよう指示した上、右通知書の回答欄に自己の氏名を自署し、前同様の「(1)通知書の通り相違ありません。(2)下記の事項について、相違又は内容不明な点がありましたので、調査の上回答願います。」との記載のうち(1)に丸印を付し、さらに「以上の通り相違ございません。不足分については、売買一枚づつでも処分をして下さい。」と記入した。

そして、Cは、原告の右指示を被告盛岡支店に連絡し、結局右銀の建玉は、同月二〇日、売買とも三枚ずつ仕切られた。

その後、原告は、代理人を通じて被告に対し、平成六年五月二六日以降の取引は全て無断売買であり、同月二六日現在預託されている現金と株券の返還を求める旨の通知をした。被告は、平成七年二月一四日に全建玉を手仕舞した。

二  主位的請求について

原告は、本件取引のうち、入院した平成六年五月二六日以降の各商品先物取引が無断売買である旨主張し、その本人尋問において、同年八月一〇日に外泊許可を得て自宅に戻った際、被告から多数の書類が送られてきていたため無断売買がなされていることを初めて知りびっくりした旨、これに沿う供述をしている。

ところで、前記一に認定した事実によれば、原告は、被告と本件取引を行う以前に、既に他二社との間で商品先物取引の経験を有していたのであるから、先物取引に関して相当の知識を有していたと考えられるばかりでなく、右他二社との間で、二回にわたって取引に関する問題点があったとして本社管理部ないし商品取引所に苦情を申し立て、その結果として和解金の支払を受けてきているにもかかわらず、被告との本件取引に関しては、入院後の最初に被告盛岡支店を訪れた平成六年八月一一日以降、代理人を通じて全建玉の手仕舞を要求するまで、被告管理部ないし商品取引所に対し、何らの異議を申し立てた形跡がないこと、原告は、同年五月二六日にb病院に入院したものの、同年六月からは歩行により病院内を移動できる状態であり、同月二〇日にa病院に転院するまでに症状はかなり改善されていることが窺える上、現にb病院から被告盛岡支店に架電する等の行動をとっていたこと、原告は、a病院に転院した後、外泊許可を得て自宅に帰る毎に被告盛岡支店を訪れており、同年八月一一日及び同年一一月二四日には建玉内訳が記載された残高照合通知書に署名しているが、その際、特段取引に関する苦情を述べている様子もなく、かえって右八月一一日には被告に一〇〇万円を追加して預託し、これが委託証拠金として扱われたことに対しても何ら異議を述べておらず、右一一月二四日には入用ができたとして証拠金のうちから一〇〇万円のみの返還を受けているに過ぎないこと、原告は、同年一二月一九日に原告を訪ねてきたCに対し、Bにつき苦情を述べることもなく、残高照合通知書に署名し建玉の一部の処分を指示していること等の一連の原告の言動は、本件取引が原告に無断で行われたこととは到底相容れるものではなく、以上に鑑みると、原告の入院後の右取引が原告に無断で行われたものであると認めることはできず、これに沿う原告の右供述は信用できず、他にこれを認めるに足りる適切な証拠はない。

したがって、右取引が無断売買であることを前提とした不当利得返還を求める原告の主位的請求は理由がない。

三  予備的請求について

原告は、本件取引において無断売買及び仕切拒否が行われたとして、被告の平成六年五月二六日以降の行為は全体として違法であって不法行為を構成する旨主張するが、このうち、無断売買の点についてこれを認めることができないことは前記二に説示したとおりであるから、以下、仕切拒否の点について検討する。

原告は、その本人尋問において、同年八月一一日に被告盛岡支店において、Bに対し、建玉を全部仕切って欲しいと述べた旨供述する。しかしながら、前記一に認定のとおり、原告は、同日、Bに対して一〇〇万円を預託しており、その後これが本件取引の証拠金として扱われたことに対して何ら異議を述べていないことを考慮すれば、原告は、右一〇〇万円の預託に際して取引を継続する意思を有していたと見ざるを得ず、これが建玉の総手仕舞の依頼と共になされたと考えることには困難があり、原告の右供述は信用できない。

また、原告は、同年一〇月一一日に被告盛岡支店を訪れ、「一〇月末日をもって商品取引の中止について(お願)」と題し、「貴職をはじめ所員の皆様のご指導を載いて取引を実施してまいりましたが入院加療中は取引をしない様医師の助言もありましたので誠に恐縮ですがご了承賜りますようお願い申し上げます、なお仕切後の金銭はお手数でも下記銀行口座に振込方御依頼致します。」と記載した書面(甲三の2)を渡した旨供述するが、右書面はこれと共に渡したとする前記「株券の送付先について」と題する書面(甲三の1)とは用紙も異なる上、前者には押印があるにもかかわらず後者にはこれがなく、前者には作成日付の記載がないにもかかわらず後者にはある等の不自然な違いがあり、これらを同一の機会に被告に渡したとの原告の供述は、これに反する被告の主張をも考慮したとき、にわかに信用することができない。

右のほか、前記二に説示したとおり、原告は、既に他二社との間において、商品先物取引に関して本社管理部ないし商品取引所に苦情を申し立てた経験を有しているのであるから、被告に原告主張のような仕切拒否等の事実があれば当然直ちに被告管理部ないし商品取引所に対し異議を申し立て、あるいは原告を訪ねた被告管理部のCに対して苦情を述べる等の行動に出ることが考えられるにもかかわらず、そのような形跡は全くなく、かえってCの持参した残高照合通知書に取引の継続を容認する署名をしていること等に照らせば、原告主張の仕切拒否の事実があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる適切な証拠はない。

したがって、本件取引において無断売買及び仕切拒否の不法行為があったことを前提とする原告の予備的請求も、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

四  結論

以上によれば、原告の主位的及び予備的各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗栖勲 裁判官 中村恭 裁判官 大澤知子)

<以下省略>

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